先生、僕を誘拐してください。
この曲を奏が歌ってくれる。
私が高校を卒業しても、その思い出は残る。
それだけで、私はいいんだ。
サビの部分で、文句を言いつつも違和感なく合わせてきた。
カナリアではないけれど、ちょっと掠れ気味のそこ声は、私の胸を掴む。
「……ちょっと俺も手伝ってくる」
「うん?」
飛び出していった奏に相槌を打ちつつ、ピアノを弾く。
『すごく、綺麗な音色』
飛び出していった奏の代わりに窓辺に現れた彼は、頬を染めてそう言う。
『僕、やっぱり好きだ。先生のピアノ、好き。さびしいけど優しくて、それでいて心のすっと入ってくる』
返事はしない。
ピアノに集中しているからもあるし、私だけ奏の本音を聞いてしまうのはずるいから。
『ずっと弾いていてほしいんだ、俺』
寂しげに言うと、音もなく消える。
それと同時にピアノは終わり、しばらく何も居るはずもないカーテンを見つめていた。