『誰にも言うなよ?』


「木乃、その本持ってきてくれるか」

「え……どれです?」


戸惑っていると

「やっぱり自分でとる」と先生が椅子から立ち上がった。


「お前じゃ届かないな」


あ、わかった。そこの棚にある本のことか。


「これくらい、わたしでも届きます!」

「はは。無理すんな」

「届きますってば……」


精一杯背伸びして、指先に本が触れた


……そのとき。


「わ、」


――しまっ……た。


バランスを崩してよろめいた挙げ句


例の本が、顔面めがけて落下してくる


「……だから言ったろ。無理すんなって」


ドサッと落下したのは、本だけで。


わたしは先生に抱き寄せられて転ばずに済んだ。


「……っ、すみません……!」


顔を埋めた先は、先生の広い胸板で。


「どんくさいやつ」


そこから、先生の香りがして。


「木乃?」


先生との距離が近すぎて

先生のこと意識しすぎて


いま、顔をあげたら……。


「立てるか……」


わたしの気持ちがバレてしまう。

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