好きだから……
―圭一side―

「ふっ、『救いようのないただのバカ』だなんて。どうしようもないわね」と隣を歩く青田が、至極楽しそうに笑った。

 どいつもこいつも、人の不幸は好物なんだな。

 俺はちらっと絢の後姿を見やる。
 絢、相変わらず小せえな。

「頑張っても、あれしか点数が取れないなら、努力も無駄ね。かわいそうね。報われない努力を続けなくちゃだなんて。そうでしょ? 圭一もそう思わない?」
 思わない……絢に関しては。いや、絢だけは。

「私たちと生きてる次元が違いすぎるわね。とても同じ学年とは思えない」
 ふふふ、と青田が笑う声が、俺の腕に鳥肌をたたせた。

 気分が悪い。
 絢を悪く言うな。
 
 絢の勉強する時間が奪ってるのは、この俺自身だ。
 額に残る傷を理由に、絢の時間を奪っている。
 縛っている。

「今回も圭一が学年一位かあ。前回よりも頑張ったのになあ。圭一に負けちゃった。本田君にも、勝てなかった。悔しいなあ」
「僕も、勉強時間を前回よりも増やしたのに、美島に負けたよ」

 青田と本田が悔しそうに話を交わしている。

 テストの点数なんてどうでもいい。
 中間試験の結果なんてどうでもいい。
 俺には興味はない。

 俺には、絢以外に興味はない。
 絢だけいればいい。
 絢だけ……のはずなのに、俺は絢を傷つけてばかりだ。

 廊下の窓に反射する己の顔を見つめる。
 前髪の下に隠れている傷を、脳内で再現する。

 絢を引き留めておく方法が、傷しかない。
 どうしたら、俺を見て、絢が笑ってくれるのだろう。
 俺にはわからない。

―圭一side-終わり
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