好きだから……
 家庭科室で料理クラブが、チョコマフィンを作ってる。
 あたしは、ちぃちゃんに教わりながら不器用なりに頑張ってる。

「ここからって、陸上部の練習がよく見えるんだね」
 あたしは、窓から見える校庭に目をやった。

 短距離走のタイムを何度も計っている圭ちゃんが見える。
 納得のいくタイムじゃないみたいで、首をかしげてはストレッチをして、またタイムをはかってる。

「そういえば、陸上部の短距離とハードルの練習はよく見えるかも~」とちぃちゃんが答えた。

 ちぃちゃんは陸上部に興味ないみたいで、ちらっと窓を見ただけで、すぐに生地が入っているボールに視線を落とした。

「絢ちゃんは、美島くんが好きだったね」
「カナちゃんにそれを言ったら、高望みしすぎだ、バカって言われたけどね」
「要(よう)ちゃんらしい一言だね。高望みしぎなのは、わたしのほうだよ。叶わない恋だもん」
 ちぃちゃんが、寂しく微笑んだ。

「京ちゃん?」
「そ。担任だよ? 先生に恋しても、望みないでしょ。先生は、東山先生が好きみたいだし」
「即刻、振られてたから、大丈夫じゃない? それに、ちぃちゃんのチョコマフィンを催促してたじゃん」

 「どうだろ。わかんない」とちぃちゃんが寂しそうに笑った。

 望みのない恋とちぃちゃんが言うなら、あたしだって一緒だ。

「ちゃんと食えるもん作ってんだろうな?」と開いてる窓から声を聞こえてきた。

「カナちゃん……。ちぃちゃんは料理上手だから、当たり前じゃん!」
「千里のことじゃねえよ。お前だよ、絢音のほう」
「あ……あたしは……」と強く言い出したものの、すぐにごにょごにょと口の中で言葉にならない言葉をつぶやいた。

 家庭科の授業で作った料理を、カナちゃんにあげて、何度かトイレ送りにしている前科があるため、強気に出られない。
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