溺愛CEOといきなり新婚生活!?

 定時を三十分ほど過ぎて帰宅の支度を整え、デスクに置いていた携帯を手にする瞬間、画面が明るく光った。


【永井さんからメッセージが届いています】

 アプリの機能のひとつに、メッセージ機能があると昨晩教えてもらったのを思い出した。
 サンプリングマリッジのルール上、双方の了承があれば連絡先の交換は可能らしいけど、三ヶ月後に企画が終わってからもしつこくつきまとわれたりしないよう、企画終了と同時にアプリは使用できなくなる仕様だ。


【仕事、終わりましたか?】
【はい。今から帰るところです】

 そう返してから、パウダールームで軽くメイクを直し、エレベーターで社屋の一階へ出た。


「花澄、また明日!」

 正面入口のドアを抜けると、同僚の女子社員が隣のビルのコンビニへ入っていくところで、私も小さく手を振りかえした。

 ATS本社は主要幹線沿いに建っていて、車の往来が多い。駅に向かうには横断しなくてはならず、なかなか変わらない赤信号に新入社員のころは苛々したこともあった。
 だけど、今となっては、仕事を終えて一日を振り返る場所でもある。


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