カノジョの彼の、冷めたキス


嫌われたのかな……

悲しい気持ちで帰路について翌週出勤すると、渡瀬くんは今までとおり普通に挨拶してくれた。

仕事上での関わりも今までどおり。

たまに一緒に残業になると、コーヒーを淹れさせられる。

それも今までどおり。


そうして気付けば1ヶ月が経っていた。

だけど……

こんなふうにそっと渡瀬くんを見つめていると、あの出張の夜のことをリアルに思い出してしまう。

あれは、ミスの責任を取らされただけのことだったんだよね……?

あの夜のキスと、そのあとの渡瀬くんのそっけない態度。

それらを総合的に考えたら、そう解釈するしかなかった。


「斉木さん」

渡瀬くんを見つめてぼんやりしていたら、不意に振り向いた彼に名前を呼ばれた。


「は、はい!」

まさか渡瀬くんが振り向くなって思ってもみなくて、咄嗟に返事をした声が裏返る。


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