カノジョの彼の、冷めたキス


椅子に座ったまま姿勢を正したあたしを見て、渡瀬くんがクスリと笑う。


「仕事中に寝てた?」

「ま、まさか」

顔を赤くしながら首を横に振ると、渡瀬くんが笑いながらあたしに近付いてきた。

渡瀬くんとの距離が近付くにつれ、あたしの鼓動も速くなる。

瞬きするのも忘れて渡瀬くんのことを見ていると、彼があたしにコピー用紙の束を差し出してきた。


「これ、原田先輩に頼まれてた資料。俺もこれから営業でたぶん1日中すれ違いだから、代わりに渡しといてもらえる?」

「あ、はい」

「それ、大事な資料だから。絶対ちゃんと渡せよ」

あたしが資料を受け取ると、渡瀬くんが笑いながら念を押す。


「そんなこと、言われなくても大丈夫です!」

なんだかバカにされたような気がして言い返したら、渡瀬くんが目を細めて意地悪く微笑んだ。


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