カノジョの彼の、冷めたキス



「俺さ、例の一件以来、斉木さんの仕事がイマイチ信用できないんだけど」

渡瀬くんが、意味ありげな顔であたしを見下ろす。

彼の話から思い浮かぶことは、大阪出張でのホテル予約の失敗以外になかった。

あれから1ヶ月間、何も言ってこなかったのに。

今頃そんな話を……しかも仕事中に持ち出してくるなんて、渡瀬くんも意地が悪い。


「あんな失敗は後にも先にも二度とないです。あたし、渡瀬くんが思ってるよりはちゃんと仕事できてますから」

受け取った資料をデスクに置きながら、不貞腐れて渡瀬くんから顔をそらす。

そのまま仕事に戻ろうとパソコンに向き直ったとき、渡瀬くんの手のひらがあたしの頭をすっと滑るように撫でた。

一瞬だけど、確かに感じた温もりにドキリとして顔をあげる。

そうしたら、優しい目をしてあたしを見ていた渡瀬くんと目が合ったからますますドキリとした。

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