カノジョの彼の、冷めたキス



三宅さんに呼ばれた渡瀬くんが、ワンテンポ遅れでパソコンから顔を上げて振り返る。

そのときにデスクのそばに立っているあたしに気付いた彼が、不思議そうに目を瞬く。


「渡瀬さん、ちょっといいですか?」

けれど渡瀬くんの視線はすぐに、何か資料を持って歩み寄ってくる三宅さんのほうに向けられてしまった。


「忙しいときにすみません。契約のことで少し聞きたいことがあって……これ、見てもらってもいいですか?」

手にしていた資料を渡瀬くんのデスクに置いた三宅さんが、背中まである緩くウェーブがかった長い髪を指先で耳にかけながら前屈みになって彼に顔を近付ける。

ひとつ後輩の三宅さんは、営業部の中でも派手目で綺麗な女子社員だ。

あたしを含めたうちの会社の営業部の女子社員は、自ら営業に出るより補佐や事務を行なっていることが多い。

けれど積極性があって話も上手い三宅さんは、自らが外回りに出ていてしっかり成績も出してきている。



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