カノジョの彼の、冷めたキス


何が渡瀬くんの心境を変化させたのか全くわからない。

ただ黙って身震いしていたら、渡瀬くんが痺れ切らしたように立ち上がった。


「迎えって何?って訊いてんだけど」

「あ、えっとそれは……」

「それは?」

口を開くと、渡瀬くんがあたしを睨んだままこっちに向かって歩き始めた。

ジリジリとあたしを追い詰めてくる。

その感じが、肉食獣に襲われてる草食獣の気持ちをあたしに想像させる。

渡瀬くんがめちゃくちゃ怖い。

悔しいからって、むやみに彼を挑発した自分を悔いた。


「それは、その……実は今日大阪支社の高下さんが出張でこっちに来てて……」

「は?高下?」

あたしににじり寄ってくる渡瀬くんの眉がピクリと引き攣る。

渡瀬くんが低い声で呼んだ先輩の名前が呼び捨てだったような気がするけど、聞き間違いだろうか……



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