カノジョの彼の、冷めたキス


そのことを渡瀬くんに伝えようとしたとき、もう何度目かになる着信が鳴った。

あたしのブラウスの襟をつかんだままの渡瀬くんの左手に、そっと右手を重ねる。


「出ていい?電話……」

そう訊ねると、渡瀬くんは迷ったように瞳を揺らしてあたしの身体から離れた。


「もしもし……」

「あ、もしもし。斉木さん?」

あたしが電話に出ると、高下さんの安堵のため息が聞こえてきた。


「降りてくるって連絡あったきり音沙汰ないからどうしたんかと思ったわ。電話かけてもぜんぜん繋がらへんし。何かあったん?大丈夫?」

大きな声で畳みかけてくる高下さんの声は、たぶんスマホから漏れて渡瀬くんにも聞こえてる。


「すみません。ちょっと急な用事ができてしまって……」

「え、そうなん?今日の約束無理っぽい?」

がっかりしたような高下さんの声が聞こえて、すごく申し訳ない気持ちになった。


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