カノジョの彼の、冷めたキス
「み、ないで……」
恥ずかしさに目を伏せて横を向く。
そのとき、あたしのスマホの着信が聞こえてきた。
そうだ、高下さんを待たせてるんだ。
渡瀬くんの激しいキスに、脳内がドロドロに溶かされて高下さんとの約束を忘れかけていた。
「わ、たせ、くん……」
きっともう、待ち合わせた入り口の前で待っているんだろう。
着信が何度も鳴っては切れる。
このまま何も言わずに高下さんとの約束をすっぽかすわけにはいかない。
でも……
渡瀬くんの綺麗な顔を見上げると、それだけでせつなくて胸が痛む。
簡単に高下さんと約束なんてしちゃいけなかった。
渡瀬くんが何を思ってたとしても、あたしはもう彼のことしか考えられない。
「あたし……」
こんな状況でのドタキャンなんて最低最悪だって十分にわかってるけど、あたしはちゃんと高下さんに謝らなきゃいけない。