カノジョの彼の、冷めたキス
◇
エレベーターを降りて外に出ると、すぐにあたしに気がついた高下さんが笑いながら手を振ってきた。
「斉木さん、こっち」
「すみません、お待たせして」
「いいよ、全然。俺も誘っといて結局遅くなってしまってごめんな。どうしよ?どっかおすすめの店とか調べてくれてる?」
「え、っと……」
今にもその場から離れて歩き出しそうな高下さんに、あたしは曖昧な言葉を返す。
本当だったら、あたしが大学時代の友達とよく行くお店に歩いて行く予定だった。
でも……
そっと今でてきたオフィスの入り口を振り返る。
渡瀬くんとのことを中途半端にしたまま、高下さんと飲みにはいけない。
「どうしたん?」
動き出そうとしないあたしを不審に思ったのか、高下さんがそう訊ねながら横から顔を覗き混んできた。