カノジョの彼の、冷めたキス
「あの、お茶をどうぞ。渡瀬はもう間もなく戻ると思いますので、それまでこちらでお待ちください」
お盆を小脇に抱えて軽く会釈すると、男が口元に綺麗な弧を描いて一瞬ドキリとするような笑みを浮かべた。
なんとなく変な気分になって、そのまま立ち去ろうと後ずさる。
男と向き合うように一歩ずつ交代して後ろ手に応接室のドアに手をかけたら、大股であたしのほうに近寄ってきた彼にがしっと手首をつかまれた。
手首に触れるひんやりとした指先と強い力にぎょっとしていると、彼があたしのほうに少し顔を寄せて笑った。
「ちょっと待ってよ。君も渡瀬と同じ営業の子?」
「えぇ、一応」
「だったら、渡瀬が戻るまで君が商品説明とか契約の流れを説明してくれない?そうすれば、時間も節約できるから」
あたしの目の前で、妖しく笑いながら仕事の話を持ちかけてくる彼。
「え、でも……」
「大丈夫。内容によっては、君に有利になるように話しを進めてもらって構わないよ。成績評価ってあるんでしょ?」
力になるとばかりに、彼があたしの手をぎゅっと握りしめて笑う。