カノジョの彼の、冷めたキス
「あの、あたしの業務は営業といっても事務や補佐がメインなので。契約のことは渡瀬とされたほうが……」
営業について取引先を回ることもあるから、うちの会社の商品についてや契約についても一通りの知識はある。
だけど営業成績に関しては、あたしの社内での評価に直接的にはあまり関係ない。
でも、たとえ関係あったとしても、彼の話は裏がありそうでいまいち信用できない。
突然こんなふうに、まるでナンパでもするみたいに人に迫ってきて、仕事の話をする彼のことがかなり怖かった。
あたしが言葉を濁すと、男は「そっかぁ」となぜか残念そうにため息をついた。
「じゃぁ、渡瀬が戻るまで暇だから、世間話に付き合ってよ」
「いや、あたしも仕事があるので……」
「そっかぁ。じゃぁ、君の名刺もらえない?」
「ど、どうしてですか?」
応接室のドアに背をピタリとくっつけて警戒心全開な目をするあたしに、男は全く動じる様子がない。
それどころか、あたしが名刺を差し出すまで解放しないとでもいうように、手首をつかむ手に力を込めた。