カノジョの彼の、冷めたキス
あたしもこのあとは渡瀬くんと約束があるけど、たぶん後輩の彼女よりは早く部屋に戻ってこれると思う。
温泉上がりに着ていた襟に旅館の名前が書かれている薄桃色の浴衣を脱いで、私服に着替える。
それから軽くメイクを直していると、渡瀬くんから電話がかかってきた。
「もう部屋戻ってる?そろそろ行かないと、いい場所で花火見れないよ?」
「うん、すぐ行くね」
渡瀬くんが既に旅館の入り口前で待っていると聞いて、あたしは急いでメイクを済ませると足にパンプスを引っ掛けて慌ただしく部屋を出た。
旅館のロビーを早足で通り抜けて外に出ると、涼しいそよ風がすーっと頬にあたる。
旅館の入り口を出てきょろきょろしていると、少し先の暗がりに渡瀬くんの姿が見えた。
「渡瀬くん」
駆け寄って見ると、渡瀬くんは旅館の濃紺の浴衣を着て、その上に濃い緑の羽織を着ていた。