カノジョの彼の、冷めたキス


腰の少し下あたりで帯を結んで、緩めに着ている浴衣姿は、それがなんの変哲も無い、しかも襟に旅館名のかかれたものなのに、なんだか様になっていた。


「穂花、浴衣にしなかったんだ?」

あたしを見た渡瀬くんが訊ねる。


「だって、旅館の浴衣だし……お風呂あがりに着てみたけど、寝巻きにしか見えなくて」

「たしかに。旅館内で女物の浴衣見たけど、外歩くにはいまひとつだったよな。男物はマシじゃない?」

「そうだね」

マシというか、渡瀬くんが着るとちゃんと様になってるから羨ましいなと思う。

と同時に、あたしが着ると寝巻きに見える旅館の浴衣を着てこないで良かったと思った。

渡瀬くんの隣を歩くには、着こなせ具合がまるで違いすぎる。


「行こう。花火始まる」

そんなことを考えながら見ていると、渡瀬くんがあたしの手をとった。



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