カノジョの彼の、冷めたキス
よろけて後ろに倒れそうになったあたしを、背中から誰かが抱きとめる。
そのまま後ろからぎゅっと抱きしめられて、驚きと混乱で一瞬パニックになりかけた。
「穂花、何してんの?」
思わず声をあげそうになったとき、耳元で聞き慣れた声がした。
あたしの名前を呼ぶのは渡瀬くん。
皆藤さんと一緒に階段の上にいると思い込んでいた彼の声がすぐそばから聞こえてきて、数秒思考が停止した。
「渡瀬くんこそ、どうしてここにいるの?」
ようやく声が出せるようになって、後ろを振り返る。
「どうしてって。エレベーターの扉が閉まるときに青ざめてる穂花の顔が見えたから、すぐに引き返したんだよ。廊下に姿が見えないから、もしかしてと思って非常階段の方に来てみたんだけど。すれ違わなくてよかった」
あたしの問いかけにちょっと苦笑いを浮かべてから、渡瀬くんがほっと息を吐いた。
上から聞こえてきた会話は別の人たち……
じゃぁ……
「皆藤さんは?」
「何が?」
渡瀬くんが怪訝そうに顔をしかめる。