カノジョの彼の、冷めたキス


「俺、言ったよな。別に会社のやつにバレたって構わないって。誰にバレたって、『俺の彼女』って堂々と言うから何の問題もねぇよ」

渡瀬くんの躊躇ない言葉に、胸が騒いだ。


「ていうか、もう既にエレベーターで見られたから今さらだけどな」

「あ……」

そうだ。皆藤さんにエレベーターでのキスを見られて、渡瀬くんが付き合ってるって宣言してくれたんだ。

皆藤さんは、あたしたちのことを社内の誰かに話したりするかな……


困って口ごもると、その隙をついて渡瀬くんが唇に、今度はさっきよりも長いキスをした。


「好きだよ」

唇を離した直後、渡瀬くんがあたしの耳に熱っぽくささやく。

不安な顔をするあたしへの、彼からの愛情表現。


渡瀬くんの甘いささやきに、皆藤さんとのこととか、会社の誰かに見られたら……とか、この場所が誰が通るかもわからない階段だってこととか。

そういう不安や気恥ずかしさが、次第に薄れていった。


バレたっていい、と渡瀬くんが言うのなら。

彼があたしを認めてくれてるのなら……

このままもう少し一緒にいたい。


「今度はふたりで行きたいな。温泉……」

渡瀬くんの背中に腕を回しながらぼそりとつぶやく。

それに応えるように抱きしめ返してくれた彼の温もりが、とても愛おしかった。





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