カノジョの彼の、冷めたキス
すると、渡瀬くんが哀しそうに瞳を曇らせた。
「俺のこと、信用できない?」
「そういうわけじゃないけど……」
でも、ときどきすごく不安にはなる。
だってあたしは皆藤さんほど美人じゃないし、自慢できることだって少ない。
視線を落として俯いたら、渡瀬くんが小さくリップ音をたててあたしの頭のてっぺんにキスをした。
びっくりして顔を上げると、今度は唇に軽めのキスが落ちてくる。
渡瀬くんからのキスは嬉しいけれど、ここは誰が通りかかるかわからない階段。
上のほうではまだ、どこかのカップルが話している気配だし。
誰かに見られるかもしれないシチュエーションが恥ずかしくて、慌てて手のひらで渡瀬くんの口を塞いだ。
「ま、待って。もし会社の人とか誰かに見られたら……」
渡瀬くんの顔をまともに見れなくて視線を泳がせていると、彼が唇を塞ぐあたしの手を退けて不敵に笑んだ。