カノジョの彼の、冷めたキス
「今どのへん?気を付けて帰ってね」
「うん。あのさ、穂花……」
渡瀬くんがあたしの名前を呼んで、しばらく黙り込む。
「渡瀬くん?」
「今から行っていい?」
気になって呼びかけたのと、渡瀬くんが話し始めたタイミングがちょうど同時になる。
いま、「行っていい?」って聞こえた気がしたけど……
「行くって、どこに?」
「穂花んち」
聞き返したら、渡瀬くんがそう言うからドキンとした。
「い、今から?もう遅いのに?」
「うん」
突然のことに焦るあたしと違って渡瀬くんはいたって冷静だ。
「明日、休みじゃないよ?」
「知ってる」
週末にそのまま泊まりに来ることはあるけど、平日の会社帰りに渡瀬くんが約束なしでやってくるのは初めてだ。
曜日を勘違いしてるのかと思ったけど、どうやら違うらしい。
「思ったより帰り遅くなったし。俺んちより穂花んちのほうが会社から近いから」