カノジョの彼の、冷めたキス


「仕事のあと副社長に誘われて飲みに行ってて、そこに皆藤も来てた」

渡瀬くんの口から聞かされる彼女の名前に、ドクンと心臓が嫌な音を立てる。


「そう、なんだ」

普段通りに返事をしたつもりだったのに、ほんの少し声が震えていた。

抱きしめられているおかげで、渡瀬くんに表情を見られなくて良かった。

もし顔を見られていたら、渡瀬くんにあたしの動揺が丸わかりだったと思うから。


「副社長が俺が担当してた取引先のひとつにすごく興味を持ってて、新しい市場を広げるためにいろいろ考えてることがあるらしい。これから、副社長の仕事を手伝う機会が増えるかも」

「そうなんだ。すごいね、副社長の仕事手伝うなんて」

「別にすごくはないよ。たまたま、俺が一緒に仕事したことのある取引先のひとつに副社長が目をつけたってだけだから。他の人が同じように副社長と仕事することだって十分あり得たと思う」

「たまたまでもすごいよ!普通はなかなか一緒に仕事したり飲みに誘われたりしないでしょ」


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