カノジョの彼の、冷めたキス



「うん。着替えなきゃいけないよね」

昨夜は思いがけなくやってきてくれた渡瀬くんと一緒に過ごせて嬉しかったけれど……

その結果、朝早く彼を起こすことになってしまって申し訳ない。

着替えのことに気付いてあげていれば、先に起きてコーヒーだけでもいれてあげられたのに。

そんな後悔をしてももう遅いので、せめて見送りはしよう。

あたしはもぞもぞとベッドから起き上がると、玄関のほうに歩いていこうとする渡瀬くんのあとを追いかけた。


「いってらっしゃい」

玄関先で笑って手を振ると、靴を履き終えた渡瀬くんが振り向いてあたしをじっと見下ろした。

まるで今生の別れかのように、渡瀬くんが熱っぽい名残惜しそうな目であたしを見つめる。

そんな彼の表情がとても愛おしかった。


「家に帰る時間がなくなっちゃうよ?」

なかなか動き出そうとしない渡瀬くんに歩み寄って、笑いながら背中を突っついてみる。



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