カノジョの彼の、冷めたキス


高垣さんとの会話に割り込むのも気が引けたから、あたしは黙ったままちょっと微笑むしかできなかった。

このままなんとなく、みんなで社内に戻る雰囲気になりそうだな……と思っていると、皆藤さんが歩み寄ってきて渡瀬くんの横に並んだ。


「お昼がまだなら、どこかで一緒にランチでもどう?」

皆藤さんが、頬にかかった横髪を掬って耳にかけながら渡瀬くんに笑いかける。


「は?」

「仕事の打ち合わせも兼ねて話したいことがあるの。渡瀬くんは他にも仕事があるだろうし、私も昼休みを取ったら副社長の仕事を手伝わないといけないので。ランチを取りながら話した方が時間短縮になるでしょ」


皆藤さんの言葉に怪訝な表情を浮かべる渡瀬くんだったけど、仕事の打ち合わせと言われたら何も言い返せないみたいだった。

皆藤さんと渡瀬くん、それからふたりのそばに立っているあたしとの間に妙な緊張感が流れる。

渡瀬くんは、仕事とはいえ皆藤さんとふたりでランチに行くことにあまり乗り気ではないみたい。


だけど皆藤さんはたぶん違う。

それに、純粋に仕事の打ち合わせのためだけに彼を誘っているのかどうか。

その表情から計りかねた。


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