カノジョの彼の、冷めたキス



そんなあたしの態度を、渡瀬くんがどう感じたのかはわからない。

だけど、個人的な感情で渡瀬くんの仕事の邪魔はしたくなかった。

会社の入り口の自動ドアを抜けてからそっと振り返ったら、もうその向こうに皆藤さんと渡瀬くんの姿は見えなかった。

複雑な気持ちで歩いていると、高垣さんが言った。


「皆藤さんって、渡瀬くんや斉木さんの同期だっけ?」

「はい。そうです」

「あまりそばで見たことなかったけど、副社長の秘書をしてるだけあって綺麗な子ね」

「そうですね」

「彼女が副社長と婚約することになったとき、ショックを受けた同期の男の子も多かったんじゃない?」

高垣さんが冗談交じりにクスリと笑う。


「そう、かもですね……」

その冗談があまり笑えないあたしは、ますます複雑な気持ちになった。



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