カノジョの彼の、冷めたキス
誰か他人がいたらこんな微妙な話はしないだろうし。
渡瀬くんだって、目の前でこんな会話が始まったらその場にいられずに立ち去るに決まってる。
電話してみたほうがいいかな……
渡瀬くんの電話番号を選んでかけてみる。
スマホを耳にあてていると、そこから聞こえてくるコール音とは別に、誰かのスマホの着信音が休憩スペースのほうから聞こえてきた。
あれ……?
このタイミングで聞こえてきた着信音に、心臓がバクバクと音を立て始める。
耳にスマホをあてたまま休憩スペースを覗き込んだとき、見たくもない光景が目に飛び込んできた。
自動販売機とベンチのある休憩スペースで向き合って立っていたのは、渡瀬くんと皆藤さん。
「彼女だったら出ないで」
電話に出ようとした渡瀬くんの腕を、皆藤さんがつかんで止める。
「離せよ。お前は副社長の婚約者だろ。俺たちはその時点でもう終わってる。というか、もともと何でもなかったんだよ」