カノジョの彼の、冷めたキス



煩わしげな表情の渡瀬くんを、皆藤さんが潤んだ目で見上げている。


「孝哉はそうでも、あたしはそんなふうには思ってない」

悲鳴をあげるみたいにそう言ったかと思うと、皆藤さんが渡瀬くんに抱きついた。


「また前みたいに、あたしのことも見て……」

渡瀬くんの胸に顔を埋めた皆藤さんが、甘い声で訴えかける。

その光景を目の当たりにしたあたしは、足元がグラグラとしてきてその場で倒れそうになった。


これは何?どうなってる……?


今までのあたしと渡瀬くんとのできごとはもしかしたら全てあたしの妄想で……

あたしは、いつかの非常階段で見た光景の続きでも見せられているのかな。

ぐっと何かが込み上げてくるのを、嗚咽とともに飲み込んだ。


ダメだ。

あのときみたいに、息を潜めてふたりの動向を見てなんかいられない。

気遣えない。

あたしはふたりに背を向けると、エレベーターまで駆け戻って、ドアの横のボタンを連打した。



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