カノジョの彼の、冷めたキス
「うん、じゃぁそういうことで……お昼どうしよう?」
立ち止まっている渡瀬くんの前に進み出て、歩きながら振り返る。
そのとき、離したばかりの手が渡瀬くんにつかまれて引き戻された。
「なんか、昼メシとかどうでもよくなってきた」
そう言いながら、渡瀬くんがあたしの肩を抱く。
「午後から仕事サボって、このまま俺の家行く?」
冗談だとはわかってるけど、渡瀬くんがあたしの耳に顔を近づけてぼそりと囁くから、一気に頬が熱くなった。
「な、何言ってるの?そんなの無理だよ。仕事終わってからでないと……」
「仕事終わったら来てくれんの?」
赤くなってあたふたとするあたしを見て、渡瀬くんが揶揄うように笑う。
「……ダメ。やっぱり、明日も仕事だから行けない」
揶揄う渡瀬くんを恨めしげに見上げたら、彼がふと優しい目であたしを見つめて微笑んだ。
「いや。仕事終わったらおいで。俺も今日は早めに仕事終わらせるから」
「…………」
甘い声音で誘われて無言で頷くと、渡瀬くんが満足気に笑ってあたしの頭を撫でる。
彼の掌の温度に、あたしの気持ちは幸せに満たされていた。