カノジョの彼の、冷めたキス
「口止め料なんてなくても、言うつもりなんてないですけど」
あたしの言葉に、渡瀬くんが皮肉っぽく笑った。
「そう?でも、俺、斉木さんのことよく知らないから、その言葉が信用できるかわからない。現に今だって、感情的になって口滑らせかけたくせに」
「それは……」
「ほら、反論できない」
口ごもるあたしを、渡瀬くんが冷たい目で見下ろした。
「でも、とにかく社内にバラしたりとかそういうのは考えてもいないので。だって、バレたら良くなさそうってこのくらい、あたしにもわかります」
「どうして?」
「だって皆藤さんて、副社長の恋人らしいってうちの会社じゃ有名だから」
あたしがそう言うと、渡瀬くんが無言でほんの少し目を細めた。
副社長と皆藤さんが付き合っているというのは、あたし達が入社して2年目くらいのときに広まってきた噂だ。