カノジョの彼の、冷めたキス


「口止め料なんてなくても、言うつもりなんてないですけど」

あたしの言葉に、渡瀬くんが皮肉っぽく笑った。


「そう?でも、俺、斉木さんのことよく知らないから、その言葉が信用できるかわからない。現に今だって、感情的になって口滑らせかけたくせに」

「それは……」

「ほら、反論できない」

口ごもるあたしを、渡瀬くんが冷たい目で見下ろした。


「でも、とにかく社内にバラしたりとかそういうのは考えてもいないので。だって、バレたら良くなさそうってこのくらい、あたしにもわかります」

「どうして?」

「だって皆藤さんて、副社長の恋人らしいってうちの会社じゃ有名だから」

あたしがそう言うと、渡瀬くんが無言でほんの少し目を細めた。

副社長と皆藤さんが付き合っているというのは、あたし達が入社して2年目くらいのときに広まってきた噂だ。


< 24 / 230 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop