カノジョの彼の、冷めたキス


だからってそんな情報別に渡瀬くんに与える義務はない。

黙っていると、彼が小さく首を捻った。

「今日斉木さんが迫ってた青野がさ、あんたのこと気に入ったんだって。紹介してほしいってうるさいんだけど、どう?」


どう?って。

どうもこうも。

いくらあの人が社長だとしても、初対面であんな馴れ馴れしい人、全然紹介してもらいたいと思わない。

あの肩書き社長を紹介されることと、あたしがうっかり口を滑らせたことと一体どういう関係があるっていうんだろう。


「いえ。あたしは別に青野さんのことは……」

「どうして?あいつ顔は悪くないし、結構頭もキレるすごいやつだよ。まぁ、喋ったらバカだけど。肩書き社長だし」

「そうだとしても、今は間に合ってるので」

やんわりとお断りしたら、渡瀬くんがふっと嘲笑にも似た笑い声を零した。


「残念。青野紹介する代わりに、この前非常階段で見たことは黙っててもらいたいなーと思ったんだけど」

「どういう意味ですか、それ。もしかして、口止め料ってこと?」

「まぁ、そんな感じ?」

テーブルに置かれているアイスコーヒーの缶に視線を向けると、渡瀬くんが小さく肩を竦めた。



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