カノジョの彼の、冷めたキス


「いや、だから口止め料なんて……」

あたしが秘密をバラすことで得する人なんて誰もいない。

渡瀬くんに対してだって、彼を左遷させたいって思うような恨みも持ってない。

皆藤さんの幸せを壊したいとも思わない。


「あたし、何ももらわなくても黙ってるから」

そう言ってるのに、渡瀬くんはあたしの背後の壁にトンと右手をついた。


「それなら、手っ取り早くキスでいい?」


え、何?

聞き間違いだろうかと目を瞬く。

だけどそれを確かめるよりも、渡瀬くんがあたしの口を塞ぐほうが早かった。


「ん、っふ……」

渡瀬くんが、抵抗しようともがくあたしの手首をつかんで壁に縫いとめる。

唇を割って舌を差し入れてくる渡瀬くんのキスの仕方はすごく強引だった。

だけど触れ合う唇の温度は低くて、ただテクニックで攻めてくるキスに、彼の感情を少しも感じなかった。



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