カノジョの彼の、冷めたキス
◇
最低限の電気だけを灯したオフィスで、渡瀬くんはパソコンに向かって脇目もふらずに仕事を続けていた。
仕事の早い渡瀬くんが、夜遅い時間まで残業するのは珍しい。
そんなに仕事が溜まっているんだろうか。
あたしの気配にすら気付かずに、パソコンに集中している彼にそっと近付いていく。
「お疲れさま」
買ってきたアイスコーヒーをデスクに載せると、渡瀬くんが驚いた様子で振り向いた。
「びっくりした。斉木さんか……」
「ごめんね。皆藤さんじゃなくて」
あたしの言葉に、渡瀬くんがあからさまに不機嫌そうな顔をした。
「飲み会は?」
パソコンに向き直ってしまった彼が、不機嫌な声で訊ねてくる。
「渡瀬くんは?このまま行かないつもり?」
「仕事、立て込んでるから」
そう答える彼は、あたしのことがとても煩わしそうだったけど、それでも訊かずにはいられなかった。