カノジョの彼の、冷めたキス
「仕事が立て込んでるっていうのは建前で、本当は行けないんでしょ?皆藤さんのこと、遊びなんかじゃなかったから」
あたしがそう切り出した瞬間、渡瀬くんが怖い顔をしてものすごい勢いで振り返った。
「は?何が言いたいんだよ、お前」
「少なくとも渡瀬くんは、皆藤さんのことが本気で好きだったんじゃないの?」
「は?」
「事情はわからないけど、皆藤さんだって渡瀬くんに全く気持ちがなかったわけではないでしょ」
あたしの言葉に、渡瀬くんの瞳が小さく揺れたのがわかった。
あたしが居酒屋を出るときに皆藤さんが見せた少し泣きそうな顔。
あれは、飲み会に姿を現さない渡瀬くんへの小さな恋慕だったんだと思う。
「この前の休憩スペースでのキスだって、そう。口止め料なんかじゃなくて、あたしにキスしてる渡瀬くんの姿を見た皆藤さんがどんな反応するか。それを確かめたかったんじゃ……」
だとしたら、皆藤さんの気持ちを引きつけたかった渡瀬くんの気持ちがわかるような気がするから。
「うるさい、黙れ!」
椅子から立ち上がった渡瀬くんが、拳で思いきりデスクを叩く。
その迫力に驚いて身を竦めると、彼が強い力であたしの肩をつかんだ。
「勝手なことばっかり言ってんじゃねぇよ。俺らが遊びだって言ってるんだから、そうなんだよ」
「でも……」