カノジョの彼の、冷めたキス
「知ってる?昔俺に、女だったら誰でも手ェ出せるって噂あったの。なんだったらお前のことだって、何のためらいもなく抱けるけど?」
唇の端を引き上げて笑ったかと思うと、渡瀬くんがあたしの身体を反対側のデスクの上に押し倒す。
「あんまりうるさく詮索するなら、これ以上何も言えないようにしてやるよ」
あたしの肩の上に手をついて、怒ったように睨み下ろす渡瀬くんをやりきれない思いで見つめる。
気付いたら、あたしの両手は自然と彼の頬へと伸びていた。
「そんな哀しそうな顔しないで」
あたしの口からこぼれた言葉に、渡瀬くんが表情を歪める。
その顔があたしには泣いているように思えて。
ほとんど衝動的に渡瀬くんの頬を引き寄せると、彼にキスをしていた。
驚いて目を瞠る彼の冷たい唇に、二度、三度と下からそっと重ね合わせる。
まさか唇を奪われるなんて予想もしていなかったらしい渡瀬くんが、彼の下に押し倒されたままのあたしを茫然と見つめた。