カノジョの彼の、冷めたキス


あたしは経験したって言えるほど、戦力にはなってなかった。


「だけど流れは見てただろ」

「まぁ、一応は……でも、あのイベントでお客様に商品のことをいろいろ説明したり、会社のアピールをしてたのはほとんど皆藤さ……」

そう言いかけて、あたしははっと口を噤んだ。

渡瀬くんが、彼女の名前を口にしようとしたあたしをとても冷たい目で見てたから。

半年前のイベントには、副社長に連れられた皆藤さんも社員として参加していた。

美人な皆藤さんは、うちの会社のブースに立っているだけでもひときわ目立って華やかだった。

それだけでも十分な気がするのに、ブースを訪れたお客様に積極的に話しかけて丁寧な商品説明をしてくれたから、彼女のおかげで展示会でのうちの会社の評判はよかった。

会社の利益を純粋に考えたら、大阪の展示会だって、あたしなんかより皆藤さんを連れていくのがベストな気がする。

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