カノジョの彼の、冷めたキス
だけど、皆藤さんが副社長の秘書兼婚約者という立場上そうはいかないだろうし。
渡瀬くんだってそれを望まないはずだ。
「だけど、あたしでなくても他に適任者がいるんじゃ……」
うっかり口に出しかけた皆藤さんの名前を飲み込んで、他に誰か…と社内に視線を動かしてみる。
そんなあたしに、渡瀬くんが小さくつぶやいた。
「斉木さんはさ、嫌なの?俺との出張」
耳に届いた渡瀬くんの声が、なぜか少しの切なさを含んでいるように思えて、胸がきゅっとなる。
「え、あ、いや。そういうわけじゃ……」
何も焦る必要なんてないのに、咄嗟に否定の言葉を口にしていたあたしの顔は、はっきり自覚できるくらいに赤くなっていた。
狼狽えて俯くあたしのデスクの上に、渡瀬くんがコピー用紙をトンと載せる。
「これ、展示会場の場所。調べて、ここからアクセスのいいホテル予約しといて。あと、新幹線の往復チケットも」