カノジョの彼の、冷めたキス


聞こえてきた声でそれが渡瀬くんだとわかったから、反射的に肩が大きく跳ね上がった。


「あ、えーっと、その。頼まれてた出張の件、新幹線のチケットとか諸々予約できたから報告をしようと思って」

まだ持っていたポストイットをひらひらとさせていると、渡瀬くんがあたしの手からそれを抜き取った。


「サンキュー。じゃぁ、来週末よろしく」

あたしのメモをちらっと見て、渡瀬くんがそれを出張用らしい資料が入ったファイルに挟み込む。

それからすぐにパソコンを弄り始めた渡瀬くんは、もうあたしを見てはいなかった。


「こちらこそ、よろしく。じゃぁ、お疲れさまです」

既に仕事モードであたしには関心のなさそうな彼の背中に、一応軽く会釈する。

そのまま静かに立ち去ろうとしたとき、背後で渡瀬くんが動く気配がした。

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