カノジョの彼の、冷めたキス




社内での営業成績もよく顧客の多い渡瀬くんは、外出やらミーティングやら、いつも朝から夕方まで忙しい。

昼間に頼まれた、出張の新幹線のチケットとホテルの予約ができた。

そのことを報告したかったけど、応接室での会議に参加してしまった渡瀬くんは、就業時間が終わる頃になってもデスクに戻ってこなかった。

定時を過ぎてから10分ほど待ってみたけど、奥の応接室のドアが開く気配はない。

既に他の仕事を済ませてしまってパソコンの電源を落としていたあたしは、デスクの引き出しからポストイットを取り出すと渡瀬くんにメッセージを書くことにした。

抑えた新幹線の時間、ホテルの名前をメモると鞄を持って立ち上がる。

2列向こうの渡瀬くんのデスクの端にそれを貼り付けようとしたとき、ふと右肩辺りに人の気配を感じた。


「斉木さん、何か用事?」

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