カノジョの彼の、冷めたキス
「ちょっと……」
小声でそう言うと、渡瀬くんのスーツの袖をつかんでフロントから少し離れた。
「何?」
怪訝な表情の渡瀬くんに、シングル2部屋を予約したつもりがなぜかダブル1部屋の予約になっていたことを説明する。
あたしの話を聞いた渡瀬くんは、うんざりといった様子で眉を顰めた。
「は?なぜか、じゃなくてお前のミスだろ」
「でも……」
「でも、じゃねぇよ。それとも何?斉木さん、そんなに俺と同室に泊まりたかった?」
「そ、そんな。まさかっ!」
ため息まじりにそう言われて、否定しながらも顔が真っ赤になった。
あたしの無意識の下心が出ちゃったってこと……?
そんな、バカな。
手のひらで口元を押さえて俯くと、あたしの頭上から重たいため息が落ちてきた。