【短】繰り返しの雨宿り
私は男性が何を言い出したのか、まるでわからなかった。
四十代に見えるこの男性は、九十二歳だと言っている。違う。九十二歳で死んだ、と。
「あ、あの。私――――」
「嫌いなトマトジュースを注文したのはなぜ?」
「え?」
「千歳ちゃん。トマトジュースが好きなのは、彼氏の方だよ。千歳ちゃんが好きなのは甘いカフェオレ」
私は驚いて立ち上がる。
その拍子に背の高いグラスを倒してしまった。
テーブルから落ちて大きな音をたてたグラス。割れてしまったそこからトマトジュースが溢れる。
「待って……ください。私は、私は誰なんですか? 私は、ちとせ? 違います。私は、私の名前……。私、家はどこ? 会社って、どこ? あなたは、誰なんですか? ここは、なに?」