華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
1─遭逢─

婚約直前のセンチメンタル


穏やかな青空が広がる今日、私は、名前しか知らない隣国の王太子と婚約する。



紅色の背景色に花と鳥が描かれた絨毯が敷かれ、控えめなシャンデリアが輝く、城内の一室。大きな格子状の窓から、私はのどかな街並みを眺めていた。

もうすぐ、城の入り口から伸びる通りの向こうから、隣国であるクラマイン国の王族の馬車がやってくることだろう。

ここハーメイデン国では、皆がそれを心待ちにしている。


人口三百万人ほどのこの小国は自然が豊かで、国民の多くが農業を営んでいる。しかし、それだけでは経済的に苦しく、出稼ぎに行く者も少なくない。

私が結婚すれば、産業で栄えているクラマインに支援をしてもらえる。

そのため国の皆は、王太子を拝見できることだけでなく、今後の生活が豊かになるであろうことも、かなりの期待をしているのだ。


浮かない気持ちでいるのは、この私だけ。

心から愛した人と一緒になれないことは、ずっと前からわかっていたというのに。


「……私を、奪いに来てよ」


もうきっと思われ人として会うことは叶わない彼を想いながら、ありえない願いをぽつりとこぼした。

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