華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
え、え、ひょっとして、キス……!?

ギョッとしてこれでもかというくらい見開いた目には、伏し目がちな色っぽいセイディーレの表情が映る。


……しかし、あとほんの数センチで唇が重なるというところで、ぴたりと動きが止まった。

ピントが合わないくらい近くで、瞼を開けた彼の瞳と視線が絡まる。

瞳孔も開いているんじゃないかという状態の私に、ふっと笑いをこぼした彼の吐息がかかる。


「本当にキスするときは目閉じろよ」


甘さを感じる声色でいたずらっぽく囁かれ、恥ずかしさやよくわからない熱がぶわっと込み上げた。

“見せつけておく”って、キスをしたように見せかけて牽制するっていうことか……! まさか、こんなキスの寸止めをされるなんて!

セイディーレはすっと顔を離し、平然と制帽を被り直す。その様子を、私はバクバクと脈打つ鼓動を感じながら、放心して見つめていた。

私たちのやり取りを見ていた男たちは、ぽっと頬を赤く染めている。きっと、見えないように隠された制帽の裏では、さぞかし魅惑的なキスが交わされたと思ったことだろう。

本当に唇を重ねたわけではないのに、なんだかすごい背徳感。

< 116 / 259 >

この作品をシェア

pagetop