華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
セイディーレは、棒みたいに突っ立ったままの私の肩を抱き、邸宅のエントランスへと連れていく。

……あぁ、先行き不安だ。これまで突き放されていたのに、突然真逆の態度になってしまわれたのだから。

しかも、誰かと付き合った経験なんてもちろんない私に、この偽の関係をうまくやれるのだろうか。


「恋人らしくなんて、できるかしら……」


ぽつりと呟くと、セイディーレは一瞬私を見下ろし、肩を抱く手にわずかに力を込める。


「お前はただ、俺に愛されていればそれでいい」


──毅然と口にされたひとことで、心臓を矢で射抜かれたような気がした。

その愛は、偽りのもの。

そうわかっているのに、彼の声は中毒性があるほど甘美に感じ、腰が砕けてしまいそうになった。




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