華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
目を見開いて硬直するラシュテさんを、セイディーレは凍りついた瞳で見下ろし、「いいや」と低い声で呟く。


「極刑にしてやるよ。次になにかしたときはな」


なんの感情もないような表情になって警告する彼を、初めて怖いと思った。

彼の内面を知らない人がこんな姿を見たら、悪魔のようだと思っても仕方ないかもしれない。

セイディーレは、軽口を叩く余裕もなくなったらしく、おとなしくなったラシュテさんから離れる。未遂だったし、今回は見逃してあげるのだろう。

こちらに戻ってくると、私の肩を抱いて立ち上がらせてくれた。そして、まだ仰向けになったままの彼に釘を刺す。


「二度とここに、この娘に近づくな。俺に復讐したいなら、死ぬ覚悟を決めてから直接狙いに来い」


凄みのある声で恐ろしいことを言うセイディーレは、私を支えて歩き出そうとしたものの、「あぁ、それと」と続け、もう一度ラシュテさんのほうを振り返った。


「酒だのギャンブルだのでお前が辛い思いをさせていた、大事な大事な“家族”のことだが」


少々嫌味っぽく口にされた言葉で、やっと上体を起こしたラシュテさんはピクリと反応を示す。

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