華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
「わかってるよ。兄さんが並々ならない覚悟で愛してるお姫様だもんな」


ふふっと嫌味のない笑みをこぼしたジルスター殿下は、ちょっと冗談を言っただけ、とでもいうような調子で私の手を離した。

しかし、放心状態の私は、手を握られていたままの状態から動けない。

ジルスター殿下が“兄さん”と呼んでいるということは、まさか……!


「第一王子、フレイヴ・エングレンスと申します」


私の前に来た彼は、綺麗な一礼をしてそう名乗った。

やっぱり、この彼が第一王子であり、私の婚約者のフレイヴ殿下……。

あなたは、セイディーレじゃないの?

心臓は破裂しそうなほどバクバクしているし、頭の中はパニック状態で、きっとめちゃくちゃ変な顔になっていることだろう。

そんな私を、フレイヴ殿下はエメラルドグリーンの瞳でじっと見つめる。

私も見つめ返していると、どんどん過去の彼と重なってくる。

名前も服装も違うけれど、この静かな熱を湛えた宝石のような瞳と、憂いを帯びた美しい表情は同じだ。

約一年前、私に愛していると囁いたあの人と──。

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