華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
リルーナのためならなんだってやる。もう、彼女を危険な目に遭わせたくない。

あのときリルーナが力を使わなかったら、間違いなく俺はやられていた。そして、彼女も連れ去られていたに違いない。

俺には彼女を守ることができなかったんだ。それはとても屈辱で、自分の無力さを思い知った。

今の自分にできることは、身代わりになることしかない。


ふたりには『まだ他に方法があるはずだ』とかなり説得されたが、俺の意志は揺らがず、前代未聞の計画を試すことになった。

俺が王位を捨てれば、リルーナと結ばれることはない。それどころか、もう会うこともないだろう。

彼女を混乱させないように、今日のことだけでなく、これまでの俺との記憶も消してもらうよう、マジルヴァさんに頼んでみよう。

フレイヴとしての人生を捨てる決心をして、最後にリルーナが眠る部屋に入れさせてもらった。

天使のような綺麗な寝顔を見ると、とめどなく愛しさが込み上げる。それと同時に、悔しさも。

君さえそばにいれば幸せだ……って、伝えられなかったな。

無念さを抱きながらゆっくり静かに顔を近づけ、頬にキスを落とした。


「……さようなら、リルーナ」


別れの言葉を告げ、俺は愛しい人の前から姿を消した。




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