華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
国民には、“フレイヴは病床に臥せっているため、第二王子のジルスターが継承権を繰り上げられた”という発表がされていた。

王太子が騎士になるだなんて、クラマインでは考えられないことだったから。

王子時代、まだあまり国民の前に姿を現すことがなかったため、俺の外見を知っている者はそう多くない。

フレイヴに似ていると思った者も少なからずいるだろうが、威圧感で黙らせていた。

そうしていつの間にか、“黒の騎士”だの“悪魔”だのと呼ばれるようになり、俺に魔力があると信じ込んで襲いかかってくる奴もいた。

狙い通りだ、と俺がほくそ笑んでいたことなど、誰も知らないだろう。


一方ハーメイデンでは、計画通りマジーさんの作った忘却の薬で、城内の人間とリルーナの記憶は消された。

リルーナの姉のミネル様や、セアリエ騎士団長も同じように。

アドルク陛下が彼らまで信頼していなかったわけではなく、気を遣わせず普通にリルーナと接することができるように、という心遣いからだ。

だが、あえて“姫は得体の知れない悪魔に襲われた”という話をでっち上げることで、その悪魔から彼女を守るようにと命じられた騎士たちは、より一層警備を強化していた。

こうして、城という鳥籠の中で、大事に大事に育ってきたのだ。……彼女が十七歳になるまでは。

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