華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
魔物が生き長らえている森の入り口に立っていた彼女を見たとき、まさかと思った。

似ているだけで人違いだろうと、半信半疑でネックレスを確かめた直後、心臓が止まりそうになったのは言うまでもない。

アドルク陛下のために薬草を取りに来たと言うが、この森にひとりで入るなんて自殺行為だ。だから帰るようにきつく忠告したというのに……。

どうしても気になって様子を見に行ってみれば、やはり魔物に襲われそうになっているではないか。

魔物になんの変化もなく、リルーナの瞳が赤くなってもいない状況から、彼女の魔力が消えているということは明らかだった。

そのことに関してはとても安心したが、困難からは助けてやらねばならない。泊まる場所もないと言うし、その晩は結局付き合ってやるハメになってしまった。


できることなら関わりたくなかった。一緒にいたら、あの頃の愛しさがぶり返してしまうことなど、容易く想像できたから。

しかも、リルーナは昔となにも変わらない純粋な瞳で、『また会いたい』だなんて言ってくる。

外見も、浮かべる表情も、とても美しい女性へと変貌を遂げたというのに。

……そんなこと、願っても無駄なんだよ。そんな綺麗な心で、俺を惑わさないでくれ。

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