華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
今思えば、馬に乗る練習をするときにセアリエがものすごく慎重だったのは、ただ過保護なだけじゃなくてお父様に十分気をつけろと言われていたからなのかも。

考えながら小さく首を横に振ると、左隣に座る姉様が腕を組み、怒ったように口を尖らせる。


「私の記憶も消されていただなんて信じられない! リルーナの力のことを知っていたって、私は絶対敬遠したり、怖がったりしなかったわ」

「あの頃はそうしたほうがいいと思ったんだ。本当にすまなかったよ」


気まずそうに軽く頭を下げるお父様。萎縮しているような彼は初めて見たかもしれない。

さっき姉様の様子がおかしかった理由もわかった。きっと私のことを聞いて、姉様もどうしたらいいかわからなかったのだろう。

たくさんの人を巻き込んで、迷惑をかけた。
──悪魔は、私のほうだったのだ。


「……私、いないほうがいいんじゃないかしら」


焦点が合わない瞳で、ぽつりと呟いた。

正面に座るフレイヴの瞳がしっかりと私を捉え、お父様も眉をひそめる。


「なにを言うんだリルーナ」

「だって、もしまだ私に力が残っていたら? 皆のことも傷つけてしまうかもしれないじゃない!」

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