華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
急に皆の中にいることが怖くなってきて、ガタッと椅子を揺らして立ち上がった。

十三年前のあのとき、この力で人を殺しそうになったという。

自分では制御できないそれが、大切な人たちにも向けられる可能性だってゼロじゃない。そう思うと、耐えられなかった。

私は震える両手を胸の前で握りしめ、無意識のうちに皆から離れるように後ずさっていた。


「やだ……誰も、傷つけたくない」


熱くなる瞼をぎゅっと閉じ、首を振りながら俯く。

すると、花の絵が描かれた床をコツコツと歩く足音が聞こえてきた。ゆっくり顔を上げれば、サーコートを揺らしてフレイヴがこちらに近づいてくる。

ドクンと心臓が鳴り、落ち着いた表情の彼から目が離せなくなる。


「大丈夫だ。これまで危険な場面にいくつか出くわしたが、リルーナはなにも攻撃しなかっただろ。もう力が消えている証拠だ」


そう言われてみれば、魔物に襲われそうになったときも、媚薬を飲まされたときも、相手にはなんの変化もなかった。

本当に、力は全部消えたと信じていいのかな?

まだ信じ切れずにいる私に、フレイヴは真剣な表情で言う。

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